母は、よそ様から「あなたのコワイ顔を見たことがないねぇ」と言われるほど穏やかな人だった。
自身が大病を患っても、家に不幸事があっても、私達子どもがいたずらをしても
どこかのんびりとした雰囲気を漂わせていた。
けれどここ数年、心を病むようになり、笑顔が消えていた。
いつも不安な、困った表情で私を見つめていた。
今年の年初に「私が絶対に治してみせる」と誓った。
そして私が選んだクスリは「玄米」だった。
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11月は開炉の季節で土日はお茶会に行く機会がいつになく多い。
週末に訪ねることができないと、母に伝えると意外な反応が返ってきた。
「お茶はいいけど、その髪の色、お茶とつろくせぇへん(そぐわない)と、思うねんけど・・・」
この1年をかけて明るい栗色に染めた髪に、母からのダメだしだった。
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1年前の母は、私の袖を放すことも出来ないぐらいに私に頼りきっていた。
私に意見を言う元気もなく、いつも自身の内にあるものにしか興味を持てなかった。
昨年の母なら「なんで来てくれへんの?」と私に懇願したはずだった。
久しぶりに母から言われた小言。
こんなに嬉しいなんて。
あいかわらずコワイ顔はしていなかったけれど
娘を案じる母の顔がそこにはあった。
母はいつの間にか自分の外にも目をむけれるようになっていた。
玄米に「間違いなし」だった。
そして、私は躊躇なく髪を染めに美容室に行った。