今年の初釜で初めてひとりで煮物椀を作りました。 今まで叔母の催す茶事の手伝いで何度かやったことはありましたが、 いつも叔母がそばにいて、手とり足とり教えてくれていました。 ここ10年ぐらいは毎年茶道の師匠宅で催される初釜では 叔母が真蒸(しんじょう)の煮物椀を作っていました。 私はその盛付の手伝いをするぐらいでした。 ところが今年は叔母から 「私も古希を迎える歳になったことだし、これからはあんたに頼みたいんやけど」 と言われました。 正直驚きました。 その理由は、煮物椀は懐石の核となるお料理で食事の要になるものであること。 ひとりでやったことがないお料理を突然出来るはずがないと思ったこと。 また今まで叔母を手伝った経験からいうと、とてつもない労力が必要だとわかっていたからです。 ひとりで作り上げる自信がない、そして「めっちゃしんどそうやなぁ」という怠け心で あれこれと言いわけをしました。 けれど叔母は 「数人分ならまだ私にも作れるけれど、14人分の真蒸はどうにもこうにも疲れるから」 とやんわりと、しかし譲らない強さで私にその仕事をするよう言いました。 京都でお料理を教えてくださっている中川さんにご相談すると、 煮物椀の椀種を真蒸にしないで 卵豆腐に岩茸をしのばせた「雲龍」というものにするのもよいと案をいただきました。 作り方も飾る方法も丁寧にツイッターで教えてくださいました。 しかし逡巡の結果、例年通り真蒸で煮物椀を作ることになりました。 日にちも迫っていたので練習用の材料をそろえることができず、 初釜前日に一発勝負で真蒸を作ることになりました。 中川さんにそのことをご報告し、教えていただいた「雲龍」は 今回の献立にあがらないことなどをお詫びしました。 中川さんは気を悪くされるどころか、真蒸の極意や飾り物に至るまで味や固さや艶や、 果ては食べる方の身になってどこに隠し包丁を入れるとよいか、 ということまで事細かに教えてくださいました。 初釜の前日は、朝から家を丁寧に掃除し、買い物、材料を整えました。 真蒸はご存知の方もおいでだと思いますが、 魚のすり身に卵白やお出汁を擦りあわせて蒸したり揚げたりするお料理です。 茶懐石のそれは後にいただくお茶を美味しく味わうために 邪魔にならない味と量、そして風味をださねばなりません。 作る工程で味見をすることができないお料理なので、 すべては予測値で作ることになります。 叔母の手伝いをしている時はすり身をあたっているときに 「これぐらいの固さ?」 「もっと擦るの?」 「量はどのぐらい?」 「こんな色でいい?」 といちいち叔母に尋ねていました。 蒸し器に入れてからも 「火加減これぐらい?」 「何分蒸すの?」 「蒸しあがったけど、どこで冷ますの?」・・・。 自分ひとりでやってみるとなんて自分は人任せだったんだろうと思いました。 作りはじめてから蒸し終わり、飾りの千代結びを終えるまでに8時間が経過していました。 叔母の手伝いをしていた時はすり身に混ぜる一番だしも 叔母が朝早くにとって常温まで冷ましてくれていました。 自分でやってみると一番だしを数リットルとって冷ますまでに2時間近くかかってしまい、 段取りもよろしくありませんでした。 前日に仕込めるものはすべてやっておき、当日の早朝に青味のものと松葉柚子を準備しました。 青味のものは本来なら鶯菜を用意したかったのですが、 揃えることができず菊菜の束の中から芽菊菜を人数分選り、 松葉柚子は講座で教わったように仕込みました。 初釜の懐石ではなんとかお席のみなさんに喜んでいただくことができました。 ちょうどその日はむそう塾でお教室を開催されていたので、 初釜を終えたあと京都に赴き、中川さんと美風さん、 そして教室で学ばれていた幸せコースの塾生さんに試食をしていただく機会に恵まれました。 そして実際に中川さんに温めて盛りつけるまでの手際や注意点を教えていただくことができました。 私には何度直そうと心掛けても直らない癖がいくつかあります。 中川さんにはとうの昔にそのことはお見通しで、あらゆる場面で露呈する私の悪しき癖を 直すためのヒントもいただきました。 そのひとつが「盛付のセンス」です。 食べる人がお椀の蓋を開けた時に、どの角度でお椀の中を見るのか。 私は調理台で盛付をしますが、お客様は座って蓋をあけられます。 その時の微妙な角度の違いをどうしても直すことができません。 また円と線の安定したバランスをとることも苦手です。 そして材料の見極めが甘い、これはどうしようもなく出来切らないことです。 「盛付は買い物をするときからはじまっている」 何度自分に言い聞かせても盛付の最後にその意味を思い知ります。 そして材料を切る時の思い切りもありません。 今回は松葉柚子にしっかりとその姿があらわれました。 本当はももう少し葉を長く、そして心もち葉を細く仕立てるべきなのですが、 「細すぎないか」 「切ってしまったら取り返しがつかない」 と気持ちひとつぶん葉が太くなります。 それは今まで何度も何度も叔母にも言われていたことでした。 盛付後の姿を予測値で想像しきれない力不足がいつまでも直りません。 仕込んでいた時は「講座で教わったようにできた」と思っていたのですが、 写真で比較すると中川さんの教えとは似て非なるものだということがわかります。 けれどそれもこれも丸っと含めて 中川さんは最後に「いいお仕事をした」とねぎらってくださいました。 きっと本当はこんなんじゃダメなんです。 それなのに、今の私の精一杯を褒めてくださいました。 そして「叔母さんが『しんどい』とおっしゃってる意味がわかってるよね。 しんどいのは今年に始まったことじゃない。 去年もその前からもずっとしんどかったはずや。 でも自分が『しんどいねん』と言うて、 はいじさんに引き継がせようとしてはる気持ちをありがたく受け止めなあかん」 と仰いました。 中川さんはたくさんの人との絆の中でそんなこともすべてお見通しなんだなと思いました。 そして叔母も私にさせてみることで自分がそばで教える以上に 見守ってくれていたんだと思いました。 煮物椀から教わったこと。 それは自分には教え導いてくださる人がいるという己の幸福でした。 中川さんの松葉柚子と私の松葉柚子の違いはコチラ。 煮物椀 盛付の手直し前と手直し後はコチラ。
by haijikg7
| 2012-01-13 18:40
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